冷凍庫に入れた肉を半年後に取り出したら、色が変わって嫌なにおいがした。こういう経験がある人は少なくありません。「冷凍したから大丈夫」と思っていたのに、実際は傷んでいた。冷凍保存には思い込みによる失敗が多く、しかもその失敗は食中毒につながることもあります。ここでは、冷凍保存でよくある誤解を5つ取り上げて、実際のところどうなのかを整理します。
「冷凍すれば腐らない」という思い込み
冷凍すれば食品が腐らなくなる、というのは半分正しくて半分間違いです。結論から言うと、冷凍は細菌の増殖を止めるだけで、品質の劣化までは止められません。
細菌はマイナス15度以下になるとほぼ活動できなくなります。だから「腐る」という意味での劣化は止まります。しかし、食品に含まれる水分は凍った状態でも少しずつ昇華していきます。これが冷凍焼けです。酸化も完全には止まらず、脂質の多い食品ほど風味が落ちていきます。腐敗と劣化は別の現象なのに、同じものとして扱われがちなところに誤解の原因があります。
たとえば、鶏もも肉を冷凍庫の奥に入れたまま3か月忘れていたとします。解凍してみると、見た目はそれほど変わっていなくても、加熱すると独特のにおいが出ることがあります。これは腐敗ではなく酸化や乾燥による劣化です。食べても体調を崩すとは限りませんが、おいしくはありません。
例外として、糖分や油分が多い食品は劣化が遅く、逆に魚介類やひき肉のように表面積が大きいものは劣化が早く進みます。同じ「冷凍1か月」でも、食品によって状態はかなり違います。実務上は、冷凍した日付をラベルに書いておき、肉や魚は2〜3週間、下味をつけたものや加熱済みのものは1か月を目安に使い切るという判断が現実的です。
急速冷凍は家庭ではできない、は本当か
「急速冷凍は業務用の機械がないと無理」と思われがちですが、これは半分誤解です。家庭でも工夫次第で、劣化を抑える冷凍に近づけることはできます。
食品が凍るとき、水分は氷の結晶になります。ゆっくり凍らせると氷の結晶が大きくなり、食品の細胞を壊してしまいます。これが解凍したときにドリップ(液体)が出る原因です。急速に凍らせれば結晶が小さくなり、細胞の破壊が少なくなります。業務用の急速冷凍機はこの「早く凍らせる」ことに特化していますが、家庭でも原理は同じです。
具体的には、食品を金属製のトレーに乗せて冷凍庫に入れる、食品同士を重ねずに平らに広げる、冷凍庫の温度設定を一番低くする、といった方法で冷却速度を上げられます。たとえば、薄切り肉をラップで包んでそのまま冷凍するのと、アルミトレーに広げて急冷モードで凍らせるのとでは、解凍後のドリップの量が目に見えて違います。
ただし、家庭用冷凍庫の性能には限界があります。大きな塊肉や、厚みのあるハンバーグなどは、どんなに工夫しても中心まで凍るのに時間がかかります。そういう場合は、あらかじめ小分けにして薄く平らにしてから冷凍するほうが現実的です。「業務用でなければ意味がない」と考えて何もしないより、できる範囲で工夫したほうが結果は良くなります。
解凍は常温に置くのが一番早い、は誤解
「自然解凍が一番安全で簡単」というのはよく聞きますが、常温解凍には食中毒のリスクがあります。結論としては、解凍は冷蔵庫内か流水、または電子レンジで行うのが基本です。
常温、特に夏場の室温は20度を超えます。細菌が最も増殖しやすいのは20度から40度の範囲です。冷凍食品を常温に置くと、表面から先に解凍が進み、中心が凍ったままの間に表面の温度は菌が増えやすい帯域に入ってしまいます。中心まで解凍が終わる頃には、表面にはすでに菌が増えている、ということが起こり得ます。
たとえば、朝出かける前に冷凍した鶏肉を台所に出しておいて、夜帰宅して調理する場合を考えてみます。室温が28度の日なら、10時間以上常温にさらされることになります。見た目や匂いに変化がなくても、菌の増殖は進んでいる可能性があります。冷蔵庫でゆっくり解凍すれば半日以上かかりますが、庫内は低温が保たれるので安全性が高くなります。急いでいるときは、袋に入れたまま流水に当てる方法なら短時間で済みます。
ここは迷うところですが、すべての食品に同じ基準を当てはめる必要はありません。パンや一部の野菜のように、常温解凍でも衛生上の問題が起きにくい食品もあります。肉・魚・乳製品など、菌が増えやすい食品については常温解凍を避ける、という線引きで考えると実務的です。
一度解凍したら再冷凍は絶対ダメ、は本当か
「解凍したものを冷凍し直すのは絶対にいけない」とよく言われますが、これは状況によります。結論を言うと、再冷凍自体が悪いのではなく、解凍から再冷凍までの間に菌がどれだけ増えたかが問題です。
再冷凍がよくないとされる理由は二つあります。ひとつは、解凍中に増えた菌は再冷凍しても死なないこと。もうひとつは、解凍と冷凍を繰り返すことで細胞が壊れ、食感や風味が落ちることです。前者は衛生の問題、後者は品質の問題で、本来は分けて考えるべきものです。
たとえば、冷蔵庫で解凍した魚を、使う予定がなくなってその日のうちに再冷凍する場合を考えます。低温で管理されていて、常温に出した時間が短ければ、菌の増殖はそれほど進んでいません。品質は多少落ちますが、衛生面でのリスクは限定的です。一方、常温で数時間放置した挽き肉を再冷凍するのは危険です。挽き肉は表面積が大きく、菌が増えやすい食品だからです。
例外として、加熱してから再冷凍する場合は話が変わります。一度しっかり加熱すれば、ほとんどの菌は死滅します。煮物やカレーのように、解凍後に加熱調理してから余った分を再冷凍するのは、生のまま再冷凍するよりずっと安全です。実務上は「生のまま」「常温放置が長い」場合は避け、「冷蔵庫内で手早く」「加熱後」なら再冷凍してもよい、という判断で十分です。
冷凍庫は隙間なく詰めた方が効率的、は本当か
「冷凍庫はすき間なく詰めたほうが冷気を逃さず効率的」という話もよく聞きますが、これも半分だけ正しい話です。結論としては、詰め方によって得と損が入れ替わります。
冷凍庫は、中に入っているもの自体が保冷剤の役割を果たします。すでに凍っているものが多いほど、庫内の温度は安定しやすくなります。これが「詰めたほうがいい」と言われる理由です。しかし、これから冷凍する新しい食品を入れるときは話が別です。庫内がぎっしり詰まっていると冷気が循環せず、新しい食品がなかなか凍りません。凍るのに時間がかかれば、さきほど触れた氷の結晶が大きくなり、品質が落ちます。
たとえば、冷凍庫がすでに八割以上埋まっている状態で、買ってきたばかりの肉をそのまま奥に押し込んだとします。すでに凍っている食品に囲まれて熱が逃げにくく、凍るまでに通常より時間がかかることがあります。結果として、ドリップが多く出て、味が落ちた状態で保存されてしまいます。
実務的な落としどころは、既存の在庫は詰めたままでよいが、新しく冷凍するものは庫内の冷気が直接当たる場所に、できるだけ隙間を作って置く、という使い分けです。急冷用のスペースを一か所だけ空けておく、という程度の工夫でも違いが出ます。すべてを隙間なく詰め込むことにこだわると、かえって新しい食品の質を落とすことになりかねません。

